三角形の内角の和は本当に180°なのか?

大学院生時代、生活のために塾講師をしていたころの話である。ある数学の先生から「小学生のころ、三角形の内角の和は180°ってすんなりと理解することができましたか?」と質問された。実際にこの講師が小学生を教えるときにこの難問に突き当たっていたのかもしれない。これに対する私の回答は即答であった。

「はい、できました」

そしてなぜすんなり理解できたのか、同僚の先生に説明した。この三角形の内角の和を計算する授業のとき、生徒(筆者)たちは色紙数枚(古新聞だったかもしれない)と定規とハサミを持参することが義務付けられていた。先生が私たちに出した指示は、「いろんな三角形を3つ作り、その三角形を切り取ること」であり、次に出した指示が「ノートに直線を引くこと」、最後の指示が「三角形の全ての角を切り取り、引いた直線に沿って1つめの角を貼り付け、次に、その貼り付けた角の隣にピッタリ合うように次の角を貼り付け、最後に残った3つめの角を貼り付ける」というものだった。「3つの角を貼り付けると、あら不思議、3つの角は直線上にならびました」というオチ。小学生というのは面白がって、ものすごい鋭角や鈍角の三角形を作ったりするものだが、どんな歪な形でも、それが三角形である限り、3つの角は直線上に並ぶ(当たり前だけど)。もちろん直線というのは180°という角度を示すわけだから、「三角形の内角の和は180°」なんだと感動こそしたものの、疑いはしない。
今にして思うと、この教え方はどの小学校の先生でもやっていたのではないかと思うんだけど、地方(ちなみに筆者は仙台市出身)や時代(筆者は1975年生)によって違うのかしら?
「良い指導方法とはどのようなものか?」などというのは教育に携わる限り追究すべき問いなんだけど、もちろん一義的に答えはでない。ただ、「良い指導方法とはどのようなものか?」というものを考えるときに想い出すのが、この小学校時代の想い出でもある。この指導方法の優れていたところは、子どものころの筆者に「三角形の内角の和は本当に180°なのか?」と疑いを抱かせなかったこと。この問いは小学生には難問だと思うし、ここで立ち止まってしまっては先に行けない。この問いを真剣に考えるにしても小学生には(少なくとも小学生時代の筆者には)たぶん無理。先生も、この命題を覚えさせたかったというより、その先にあるもの、たとえば問題集にある問題を解かせるとか、そういう「問題の解き方・考え方」を教えたかったのではないかな。